●文学に見つける喜寿の話
短編小説「喜寿童女」とは
「喜寿童女」という短編小説をご存じですか。1936年の第4回芥川賞受賞者で、「処女懐胎」「焼跡のイエス」「狂風記」などの作品が有名な、昭和に活躍した作家・石川淳(1899~1987年)の初期の頃の作品です。「喜寿」といえば当然ながら77歳を指すわけですが、その「童女」とはこれ如何に。なんだか不思議なタイトルですね。
種を明かせば、これは一種のSFファンタジー小説。77歳の喜寿までに1000人の男を知ったという芸妓が仙術によって童女に変身させられ…というお話。その詳しい内容や顛末まではここでは控えますが、そのタイトルなみにストーリーの意外性もなかなかのもの。また、ご年配の方には、石川淳の名前自体が自分の青春と重なるという方もおられるかもしれません。喜寿を記念に改めて読んでみるのも良し、また喜寿祝いにちょっと添えてみるのも意外性のプレゼントになりそうです。
喜寿の荷風は毎日洋食。
「濹東綺譚(ぼくとうきだん)」や「ふらんす物語」などの作品で知られる作家・永井荷風(1879~1959年)。彼が喜寿の頃に通いつめていたのが「アリゾナ」という洋食屋。彼の日記をそのまま出版物とした「断腸亭日常」の中には、ほぼ毎日といっていいほど、その名が記されています。裕福な商人の家に生まれた荷風は若い頃に欧州やアメリカに遊学。異国の地でも「街」の生活の華やかさや退廃までも存分に楽しみました。その頃への憧憬が彼を、当時の日本にあって異国を宿す洋食屋・アリゾナへと向かわせていたのでしょうか。
なお、このお店、現在もそのままの店名で営業しているのですが、あくまでも荷風が気にいっていたというお店。実際に探し当て、荷風の気分で食事をされても、荷風と同じ気分になれるとは限りません。なにしろ、晩年は“変人”の様相を呈していた荷風。喜寿祝いを記念して荷風に心体も一致…というのは、どうやら簡単なことではなさそうです。
●言葉に見つける喜寿の話
喜寿祝いに地方色の温もり――「しちぼこ祝い」
長寿祝いはオーソドックスなかたちで行うものもあれば、地方や地域によって個性のあるお祝の仕方があります。そうした中でも呼び方としても面白いのが、喜寿祝いを「しちぼこ」と呼ぶ習慣。栃木県をはじめ、周辺の地域に残る慣習のようです。
ただ、不思議なのはその語源。「しち」はそのまま「七」であることは間違いないでしょうが、「ぼこ」の意味は…?誇り、祠(ほこら)、矛、鉾、はたまた、「雪ぼっこ」に代表されるように、子どもの姿の妖怪を「ぼっこ」と呼ぶことと、年をとって認知症が始まった状態を「二度童(わらし)」と呼ぶことを重ね合わせ、「しちぼこ」と呼ぶ可能性も…。しかし、この場合は「しちぼっこ」になりそうであることを考えると、やはり矛や鉾など、祭りの神輿になどにかかわる言葉と考えるほうが語源としてはありそうです。
しかもこの「しちぼこ」の祝い方というのが独特。火吹き竹に半紙と水引をかけてご近所や親類縁者に配るというのです。もっと細かい決まりごともあるようですが、同じ「しちぼこ祝い」でも地域によって多少の違いがあり、火吹き竹…の部分が概ね共通のようです。いすれにせよ、こうした地方色豊かなお祝いの仕方もまた文化。心に温かい慣習の一つと言えますね。
※喜寿祝いの別称「しちぼこ」の語源についてご存じの方は、ぜひご一報ください。この欄にてご紹介したいと思います。
喜寿祝いは国際性豊か?
日本で昔から縁起の良い数字とされてきたのは末広がりの「八」。それに対し、喜寿は「7」が肝心となる長寿祝いですが…実は、現代人にとって縁起の良いイメージのする年齢かもしれません。なにしろ「ラッキー7」がダブルになっているのですから。
ただ、「喜」の字を草書で書くと…という喜寿祝いの正式ないわれを外国の方に説明するにはちょっと苦労するかもしれません。というのも、「喜」の字を草書にすれば「七」の字は3つ。777歳などという年齢は、少なくとも人間ではありえませんから、「もう一つの7はどこへ行ったんだ~」ということになりかねません。
しかし、「ラッキー7がダブル」と言えば即座に理解されるでしょうし、心情的にも納得、賛成してもらえそうです。しかも「7」という数字は多くの外国人の方にとって「区切り」としても理解してもらいやすい数字。なにしろ、「1週間=7日」というのは、旧約聖書から生まれた定義。神が天地を創造した際に要した日数でもあり、聖なる数字でもあります。それだけではなく、たとえば音階は「ド」から「シ」まで7つ、虹は七色、また、歴史に残る偉大な数学者・ピタゴラスは、完全数である3と世界数4を足した7の数字を「宇宙の数字」と定義付けている…などなど、いわゆる“西洋文明”において「7」は、非常に意味を持つ数字。そう考えれば、喜寿祝いはいつか、国際的な長寿祝いになる日が来るかもしれませんね。
喜寿祝い用のお店は探しやすい?
ご長寿祝いに、家族揃って食事会。そのお祝いにちなんだ店を探そうとネットで検索してみると…。こんな時、探しやすいのが喜寿祝いのお店かもしれません。というのも、還暦という店名は有りそうで有りません。また、古稀の場合は、その特殊ないわれ(古稀の由来参照)のため、店名にするのは難しく、米寿以上になるとあまりに長寿祝いに直結してしまうため、店名としては使いにくいようです。それもそうですね。長寿祝い専門店と思われてしまえば、お客様の層を狭めてしまうことにもなりかねません。
しかし「喜寿」となると、けっこうお店の名前にヒットします。なぜでしょう。実はこれは文字にあります。種を明かせば、「喜寿」の言葉が組み込まれている店名が多いのですね。とりわけヒットするのが寿司屋。確かに、「○喜寿司」などという店名は決して個性的な名前ではないかもしれません。たとえば○の部分に「安」とか「大」とか「皆」とか入れてみてください。むしろ、いかにもお寿司屋さんっぽい名前になります。というわけで、喜寿祝いにふさわしい店を選ぶのは、他の長寿祝いに比べて簡単かもと…ちょっとダジャレ感覚な話のネタです。